『深い河』

コロナ第二波の影響で、5月5日~20日まで大学が一斉休講。なぜかオンライン授業も一斉にストップに。去年の第一波でオンライン環境も整っただろうに、何故…。つくづくインドの大学ってまじやる気ないなーと感じる。まあ私のコースでは、面白い授業の先生に限ってコロナに感染してしまい、どの道授業ができなかったようなので、まあ良いか。

5月21日にようやく授業再開。久しぶりに先生や同級生とオンライン上で再開!と思いきや、5人中2人の先生が丸坊主になっていた。親が危篤状態で、病院での見舞いの合間を縫って授業をしてくれた先生も(その先生の授業はいつも情熱にあふれていて、議論形式で毎回面白い。このコロナ禍でも決して休講にしない、インドでは珍しいタイプの先生。)。

そんなこんなで、いつも以上に大学に期待ができなかった5月は、新聞をしっかりめに読んだり、家庭教師のコマ数を増やして作文を見てもらったり、日本語の本を中心に読んだ。コロナ感染疑惑の直後は、しばらくヒンディー語の難しい文章を読む気にならず、日本の本の積読消化に徹した。

最近は、遠藤周作『深い河』、グルチャラン・ダス『インド人と日本人』(前書きは鈴木修氏)を読んだ。あと、『インドでキャバクラ始めました(笑)』という漫画も、コロナ騒動後に怠さが続いていた時期にパラパラと読むのにちょうど良かった。インドに来て半年、バラナシに来てからは特に、異国で奮闘している人の体験記がすごく響く。twiceの日本人メンバーとかめっちゃ応援するようになった(笑)

深い河 (講談社文庫) | 遠藤 周作 |本 | 通販 | Amazon

『深い河』は、読もう読もうと思って読めていなかった本の1つ。本の内容をすぐ忘れちゃうので、ネタバレ備忘録を書いておきたい。

本作品は、日本人向けのバラナシツアーが題材。ツアー客には、個性豊かな面々が揃う。

素直になれない故に旦那ともうまくいかず、人生をさまよう美津子。キリスト教系の大学に通いながらも宗教を徹底的に嫌っていた。ツアー中には、聖母マリアとは異なる、苦悩をも備え持った表情の女神、チャームンダー像に感銘を受ける。そして、忘れられない大学時代の同級生、大津に再会する。大津は、フランスの修道院で神父を目指していたが、汎神論的な考えを捨てられずフランスでは異端扱いされ、バラナシにやってきていた。不可触民と共にアーシュラムに住みつつ、バラナシの路上で行き倒れた遺体をガートに運ぶボランティアを行っていた。

癌で妻を亡くした磯部は、インドのバラナシ近郊の村に、日本人の生まれ変わりの可能性が高い子どもがいるという情報を入手する。生まれ変わりなど信じるタイプではなかったが、藁にもすがる思いでツアーに参加する。現地についてみると、その子どもは既に引っ越していたことが発覚し、酒に酔い自暴自棄になり、高価な怪しい占い師に最後の望みをかけ、なんとか気持ちにケリをつけようと試みる。

木口は、ビルマ戦線で仲間を大量に失い、死んだ仲間の肉を食べて生き延びた経験を持つ。仲間の供養を望みツアーに申し込むが、現地でインドが仏教国ではなくなっていたことを知る。

絵本作家の沼田は、自分が手術で生き延びた時に飼っていた九官鳥が亡くなった経験から、バラナシで九官鳥を購入して、森に放して恩返しをしようとする。森の中に飛び立つ九官鳥をみて、少し気持ちが楽になる。

三條夫妻は、新婚旅行としてツアーに参加するが、カメラマンを目指す旦那は撮影の題材探しに没頭し、妻はシルクや宝石にしか興味を示さず、あたり構わずヨーロッパに行きたかったとわめき散らかす、少し迷惑な存在。

旦那はガートに運ばれる遺体の撮影を試み、それに怒ったインド人達に追いかけられるが、三條を庇おうとした大津が殴られ重体となってしまう。物語は、コルカタ空港についた美津子が、大津の重体を知らされるシーンで終わる。

一人ひとりが人には言えない悩みやトラウマを抱え、バラナシにやってくる。宗教や生死問わず、「深い河」は全てを包み込んでくれる、という話。

遠藤周作の他の作品はあまりついていけずに途中離脱してしまうことが多いのだが(自分自身が何も信じていないことと、キリスト教に関する知識不足が原因だと思う)、今回はインドが題材ということもあって楽しめた。十八番のキリスト教、本書の舞台となったインド、戦争を経験した世代だからこそ書けるビルマ戦線の話等、色んな要素が詳細に書かれていて、それが全てバラナシでつながるので、読み応えがありつつも、まとまりの良い本だった。

遠藤周作は戦後フランスに初めて留学した日本人。フランスやキリスト教に関する記述が詳しいのは当然だけれど、インドに関する記述も負けず劣らずしっかり書かれていて、やっぱりすごい人なんだなあと思った次第。

本書執筆のために遠藤周作がインドに行ったのは1990年。今でこそ在留邦人数も増えてきて、一部ではインドへの理解も深まりつつあるけれど、ネットで情報も大して入らない時代に旅行会社のインドツアーに参加していた日本人ってこんな感じだったのだろうか。

私がインドに行き出したのは2010年代からだけど、慰霊目的の木口、インドに来てわざわざインド嫌い宣言をする三條の妻なんかは、あーこういう人、見たことある〜という感じだった。

個性豊かな登場人物ながらも、人物描写がリアルで良い。何らかの目的を持ってツアーに参加して、その目的を達成する人もいれば、お金だけ巻き上げられてとことんうまくいかない人、よくわからないけど気持ちが楽になった人など、各人の結末も現実的。じっくりインドを見た上で書いたのだろうなぁと感じた。

コロナのせいでもう3ヶ月近くガンジス川付近に行っていないのが寂しい!今はただ行って、何もせずボーッとしたい。。。それだけでとても贅沢に思える。

去年のガンジス川