『喪失の国、日本』

 インド経験の豊富な大学の先輩が面白そうな本を読んでいたのをTwitterで見かけ、すかさずポチッた。ようやく読み終えたので今日はその備忘録。

バブル崩壊直後の日本に2年弱駐在したエリートインド人の回顧録。本の序盤では日本生活でのカルチャーショックがコミカルに描写され、徐々に日本社会の深い部分へ入り込んでいくのでどんどん引き込まれていった。

本の冒頭で著者のシャルマ氏が市場調査員として日本に送り出される際、新聞等の誰でも入手可能な情報ではなく日本という国を自分でしっかり見て、日本人の感覚的な部分を掴んでくるよう上司から激励されていたが、時代や状況こそ違えど、自分が日本から送り出された時に掛けられた言葉と重なった。シャルマ氏は伝統を重んじる菜食のヒンドゥー教徒であるが、酒を含め色んな日本文化に体当たりで臨むから凄い。私も見習って、食べず嫌いのパーンを食べたり、パタンジャリ製品をトライしてみようかな。。。と、自分のこれからのインドでの身の振り方を考えさせられるような一冊だった。

シャルマ氏が日本で感じていたカルチャーショックは、まさに私がインドで体験しているカルチャーショックの逆版という感じで、非常に興味深かった。例えば、シャルマ氏は日本のレストランで料理人が客の雑談に口を挟んでくることに驚いたというが、私は逆に、インドのホテルでルームサービスと食器の片付けをお願いすると2人のスタッフが来て別々に対応するといったカーストによる分業は、いつまでも違和感が残るものだろうなと思う。また、日本で良しとされている、脱いだ靴を手で揃えるのはインドでは不潔という部分についてはハッとさせられた。インド人の家にお呼ばれされた時とか結構やってしまっている気がする。。。😥

あとは、値段に対する捉え方の違いもなるほどなと思った。シャルマ氏は文中で、交渉とは、日本人にとっては値段を減らすことであり、インド人にとっては値段を決めることというようなことを書いていて大納得した。インドでは定価の概念が定着していないため、全ての客に対して常に同じ価格で提供するという慣習に慣れてしまっていると、無意味にイライラしたり店員にとってはトンチンカンなことを言ってしまったりする。もちろん、そもそも価格や量といった規格やマニュアルみたいなものがない故に、臨機応変に対応してもらえたり、良い面もあるのだけれども。

駐在期間は2年弱、かつ日本語を介さない割に、日印文化の比較や考察が深いなと感じた。特に、敗戦がもたらした日本人独特の戦争観や平和ボケに対する指摘は秀逸。この辺りは残念ながら、30年経っても基本的に変わっていないと思う。他方、通訳役を兼ねた世話係で知識豊富な佐藤氏はじめ、周りの稀有な日本人のフィルターを通して日本文化を体験しているため、一部断定的に過ぎ、偏った印象を受けた。日本みたいな英語が通じにくい国であれば尚更、現地語の理解なくして社会を理解することは難しいのだろうなー。

あと、30年前の平均的な企業の事情をよく知らないが、そんなにみんなこぞって、飲み会ではあからさまにきれいどころの女性社員を呼んだり、取引先とピンサロに行っていたのだろうか。。。令和の社会人感覚からすると物凄い抵抗感を感じるが、この辺りの真偽は不明。恥ずべき文化だが、今はマシになっているよと声を大にしてシャルマ氏に教えてあげたい。。。

シャルマ氏がインドに帰ってきてからどういう経緯で田舎生活に立ち返ったのかは明らかになっておらず、気になるところ。原題やシャルマ氏の名前を検索したがネットでは何も得られず。日本語版では、訳者が説明を補足した部分もあるとのことだったので、本屋の知人を通じてヒンディー語版を探してもらうことにした。もうさすがに絶版かしら。見つかるといいなぁ。

今日の写真。やっぱりカレーは南インド派!!