あるインド人の日本旅行記

もう3月最終日。日本だったら卒業入学入社シーズン、桜を見てうっとりですが、こっちはホーリーも終わって夏が始まるんだなあという感じ。

29-31の予定だったホーリー休暇が、コロナを理由に急遽23-31に大幅増加!イェーイ。ガンガン本読もうと思っていたのだけど、読むスピードが遅いのに加えてホーリーのお菓子作りだの来客だのにかまけて結局1冊しか読まなかった…。

今回読んだ本はこちら→ ऋषि राज 氏著 "एक भारतीय की जापान यात्रा"

kindleでも簡単に手に入ります。

インド人が日本についてどう考えているのかということをちゃんと理解しないとなあと思っていて、Amazonで調べたら、こういう日本体験記みたいなのは意外と少ない(日本にあるインド体験記よりずっと少ない)ようなので、片っ端から読んでみようと思う。

薄くてすぐ読めるかなーと思っていたら、ウルドゥー語っぽい単語や古風な表現が結構使われていて、意外と時間がかかってしまった。

著者

リシ・ラージ氏は1975年デリー出身、デリー準州政府傘下にある企業で、鉄道関係の業務に従事。2012年に執筆したチベットのカイラーシュ山旅行記でインド政府観光省から受賞。2017年に日本政府の招へい(障がい者理解に関するプログラム参加)により、18日間に渡って来日。名古屋の障がい者関係の施設に滞在しつつ、内数日間を東京で過ごす。

まえがき

日本に留学・駐在経験のあるハルディープ・シン・プリ―航空大臣が執筆(コロナ禍で国際線運航停止延長のときに毎回会見で出てくるイメージがあったので、日本に関係のある方だとは全く知りませんでした…!)。限られた文字数の中で、①チームワーク、物事の細部への理解、謙虚さといった日本人の長所によって日本が経済発展を遂げてきたこと、②規律、忍耐によって様々な自然災害を乗り越えてきたこと、③掃除と清潔さを保つ習慣(स्वच्छ भारत の総括もしている由)を挙げられていた。

鉄道について

幼いころから鉄道好きで、鉄道関連の仕事に就いていることもあり、日本での新幹線、地下鉄乗車体験や、日本のODAによるデリーメトロ導入時のインド国民の反応やジレンマ、現在進んでいるムンバイーアーメダバード高速鉄道プロジェクトへの期待と懸念などについてインド人かつ鉄道関係者の視点から書かれていた点で、良本といえる。

90年代にデリーメトロを導入する際、やはり庶民から「割に合わない」として反発の声が出たという(ちなみに、持て余すような身の丈に合わないものを、"सफेद हाथी"というらしい。)。67年にラージダーニーエクスプレスを導入したときも同じような反発があったらしい。デリーメトロはともかく、ムンバイ→アーメダバード間の新幹線にわざわざ乗る庶民はいないよね。ODAって難しい。。

著者は、デリーメトロの導入に関して、日本の経済支援に感謝するとともに、高速鉄道にも大きな期待を寄せていた(職業上の立場もあるからあまり突っ込んだことは書けないのかもしれない。)。デリーメトロ導入によりインドが得た利益として、大気汚染低下(90年代よりずっと空気汚いと思うんだが)、交通量減少、高水準の交通手段入手等が挙げられていたが、著者が感じる最大の利益は、交通事故数の減少だという。デリーにおける1日あたりの交通事故死者数が、7人から3人に減少したらしい(ちなみに、デリーメトロを使って自殺を図る人は1か月4人いるらしい。)。

日本によるデリーメトロ案件の支援額がはっきり書かれていたが、額だけじゃないんだよなぁ、というのが少しもどかしい。これまで自力で(まあ東海道新幹線の時は日本も借りたお金で作ったわけだが)培ってきた技術を導入するわけだし、それに伴う政府関係者やコンサル、商社、メーカーのマンパワー、雇用の創出、運用時のノウハウなんかはプライスレスな部分なので、そこも普通のインド人に分かるような形で書いてもらえたらもっと良かったと思う。

高速鉄道に関しては、運賃面の懸念について書かれていた。ムンバイーアーメダバード間の高級バスの運賃が約1500ルピー、現存のエアコン付き一等車の運賃が2700~3000ルピー、航空便の運賃が2500~3000ルピーとのこと。著者によれば、この運賃構造によって、インド鉄道は安価な航空便の影響を受けているという。これは高速鉄道にも降りかかる問題かもしれない。

鉄道大好きな著者なので、たまに細かい性能の話が続いて思わずクスっと笑ってしまった。1967年にラージダーニーエクスプレス、1988年にシャターブディー、2019年に導入されたインド産初の電動列車(ヴァ―ンデーバーラト)が誕生。ヴァ―ンデーバーラトでは、日本の新幹線みたいにシートを回転させて4人向き合って座れる設備が導入されたそう。

鉄道関係の記述については、著者の専門性が良く出ていて、読みごたえがあった。

障がい者支援の話

著者の専門外の話になるので、特段目を引くような内容はなかった。そもそも、専門外の著者が何故このプログラムに参加したのかこの本ではよくわからなかったが、鉄道におけるバリアフリー促進という意味で、本プログラムが活かされることを期待。

本によれば、インドでは障がい者の45%が学校に通っていないそうで、日本で障がい者施設を訪れて、障がい者に教育面をはじめとする生活支援が与えられていて、障がい者関連の政策や支援を自立した障がい者自身が担っていることに感銘を受けていた。ちなみに、デリーメトロでは、全ての駅でエレベーター完備らしい。

障がい者関連で印象に残ったのは、1965年の印パ戦争で頸椎を負傷し車椅子生活を余儀なくされた退役軍人のMajor Hari Pal Singh Ahluwalia氏の話。印パ戦争直後にエベレストに登り、障がい者向けの病院を運営したり、障がい者の権利向上に向けた活動をしているという。知らなかった~。

日本に関する印象

特に日本について学んだことのない著者の初来日、それも18日間という短期間だったので仕方がないが、日本に対する理解不足というか、表面だけで捉えている部分が目立った。日本人が読む分には面白いが、日本を知っているインド人は読まないだろうなという印象。

「年寄りが譲られた席に座らないのはその席を必要としていないからだ」、「黒い葉っぱに包まれた白米(おにぎりのこと)」「日本人はウォシュレットがあるからインド人と同じくトイレットペーパーを使わない」、などなど。前知識なしにいきなり日本に来ると、こういう捉え方するんだなーというのが分かる。

一番突っ込みたくなったのは、銀行でお金を客に確認させつつ確認させるのに感銘を受けたという話の流れで、「日本の人々の誠実さ、自尊心そして愛国心は、全世界に知れ渡っている。」という記述。日本って、(例外はあれど)敗戦を機に愛国心をタブー視するようになった国だったと思うんですけど。。。日本人+愛国心を関連付ける記述が2-3か所程度あった。著者は18日間の滞在の中で、どこから日本人の愛国心を垣間見たのだろう。「愛国心のある人=良い国民」というインド的な思考回路のまま日本を見ているのだなあと思ってしまう。

著者はベジタリアン。18日間、ずっとベジタリアン食の入手に苦戦していて、読んでて惨めに思えた。牛乳、バナナ、コーンフレークばっかり食べていた。。。私のホームステイ先のお母さんも、日本旅行中は白米とポテトばかりだったらしい。そばとかサンドイッチとか、べジ食もなくはないんだけど、がっつり日本語+英語話せない店員ばかりだから苦労するのよね。。東京在住のインド人の友達は、モスバーガーベジタリアンバーガーを出した(菜食なのに満腹感が出る)ということで大喜びしていた。この風潮が広まっていくことを期待。

インド人にとって、日本では言葉とノンべジ食の問題が大きく立ちはだかるし、日本語を学ばなきゃだめだとか無理してノンべジ食べろとか言う気は全くない。が、正直なところ、普通の日本人と話したり、瞬間冷凍といった技術や隅々まで行き届いた物流のおかげで日本のどこでも新鮮な肉魚が手に入ることや、その調理技術を感じずして、本当の日本の素晴らしさを感じることは難しいというのは思う(インド来てから特に思う)。

本全体としては、誤字や固有名詞のミスが多すぎたことと、同じ表現や同じ話の繰り返しが結構見られたので、そこまで練られた本ではないなというのが正直な感想(まるで私のブログみたい)。日本語の挨拶や有名な地名をあまりにも間違えていると、日本自体のことは特にどうでもいいんだなーという印象を持ってしまう(自分が語学から入った人間だからかも)。自分も気を付けようとおもった。

数日前まではそこまで熱くなかったので、3つくらいの部屋とベランダとを行き来して読んでた。ベランダの作りがかわいい~。